2021年10月15日金曜日

Genesis Piano Project / フル・アルバム・リリース!!

この数年、YouTubeで観られるライヴ映像に、ハマりにハマったのが、このGenesis Piano Projectです。

Angelo Di LoretoとAdam Kromelow, 二人のピアニストによるユニットで、これまではライヴとYouTube配信で活動してきました。

そんな彼らですが、遂にフル・アルバムがリリースされました。

収録曲はもちろん全曲Genesisのカヴァー。2nd「侵入」から7th「静寂の嵐」までの楽曲から選曲されています。

Apple Musicでは10/10にフル・アルバムの配信がスタート。その少し前には「サルマシスの泉」が先行配信されていました。

The Fountain of Salmacis

レコーディング場所はなんと!

Genesisのオリジナル・メンバーが、学び育った寄宿制学校「Charterhouse」にて実施されたとの事です。YouTubeで数曲、その様子を観る事ができます。

Firth of Fifth / Supper's Ready

Stagnation

YouTubeでしか体験できていませんが、彼らの魅力はライヴと思っていました。
オリジナルへのリスペクトが強く感じられる、最小限のアレンジによる再現力、きらびやかなのに邪魔にならない高い演奏技術による装飾。そしてライヴならではの胸アツなドライヴ感と、二人の阿吽の呼吸には舌を巻くばかりでした。

彼らの神髄はライヴにある、と思うのは今も変わりありませんし、今回のアルバムもオーディエンスが居ないだけで、ほぼライヴなのだとは思います。
ただやはり、スタジオ録音と同義の作品として制作したのでしょう。いままで公開されていた映像での演奏に比べると、よりきっちり纏めてきた印象があります。
ただそれは全く悪い意味ではありません。
1曲1曲に、一音一音により没入できる仕上がりになったように感じます。

彼らの音楽を聴いていると、Genesisの音楽性の高さを再認識させられますし、ピアノ曲になっても全く違和感なく、すんなりと耳に、心に入ってくるのを感じます。そして特に、Tony Banksの作曲能力の高さに唸らされます。
Genesisは、特にプログレ期にあってはPeter Gabrielの圧倒的存在感や、今もその音楽を継承し続けているSteve Hackettの存在にスポットが当たりがちです。それは勿論間違いではないですし、私もメンバーのソロ・キャリアに関してはPeterとSteveばかり追いかけてきました。

GenesisのピアノカヴァーはGenesis Piano Projectだけでなく、さまざまなピアニストによってリリースされてきましたが、それらを聴いて改めて思ったのは「Tony Banksすげー!」でした。彼の才能があったからこそ、ピアノ曲としても受け継がれ続けているのだなぁ、と思います。

最後に、彼らの演奏の中でも白眉と思う、イタリアでのライブ映像を貼って締めにしたいと思います。
Cinema Show (Pt.2)

2021年10月3日日曜日

Yes / The Quest

なんだかんだ言って、めちゃめちゃ楽しみにしていた7年ぶりの新譜です。

10/1 に日付が変わった0時、直ぐにApple Musicにアクセス。4時近くまでリピートして聴き込みました。そして3日経つ今も、時間があれば聴いています。とはいえ、まだ印象が固まりません。スルメ・タイプの作品かもしれません。

オリジナル・メンバーは3人生存していますが、現ラインナップには含まれません。

残念には思いますが、個人的には現メンバーに不満はありません。

Jon Anderson復帰を望む声は絶えませんが、いろいろ無理なのでしょう。

Bill Bruford & Tony Kayeも、本人たちの状況や意思としても無しです。

ギターのSteve Howeがプロデュース。Geoff DownesやBilly Sherwoodという、プロデュース業に長けたメンバーがいる中、遂に最長老がYes作品の総監督を務めました。

全11曲中、Steve作が6曲(Jon Davisonとの共作1曲含む)。そのためか、彼のギターはかなり楽しめます。時としてライヴで感じるようなヒヤヒヤもなく、名演を聴けます。エレクトリックは70年代中期を想起させるような緊張感や抒情性がありますし、幾つもあるSteveのトレードマーク「ペダルスティール」「ポルトガル・ギター」なども随所で印象的に響き渡っています。

アコースティック・ギターも冴えていて、澄んだ音色が響くさまは、かつてのWindom Hill作品のようです。

通して聴いた印象として、先行配信の「The ice Bridge」は、結果として他人の曲を転用したモノ、という事もあって異質だったという事。エッジが効いていて、キーボードも大活躍で、リードトラックとして否が応にも「Yes復活(何度目のコピーだ)」の期待感を煽る佳曲でした。

ですが、配信第二弾「Dare  to Know」で「ん?」となり、アルバム全体としては、そちら側の印象が強い、とても穏やかな作品として世に出ました。

そういう意味では前作「Heaven and Earth」の延長線上にあると言えるかもしれません。また、Billyがいる影響か(良い意味です)「Open Your Eyes」「The Ladder」、はたまた彼のバンドWorld Tradeとの近似性を感じる箇所も少しあります(The Western Edgeが顕著です)。

個人的に印象的だった曲を下記に綴ります。

- The Ice Bridge: 

作者問題も含め、過去のエントリーで書きましたので、今回は別の切り口で。

Cパート「Interaction」で繰り広げられるギターとキーボードのインタープレイは、本作一番の聴きどころではないでしょうか。

うろ覚えですが、2003年頃のライヴで繰り広げられた「South Side of the Sky」での、Steve & Rickの応酬を思い出します。

また、曲の骨組となったキーボード・パートは丸っきりFrancis Monkman / The Dawn of an Eraですが、JonDが作った歌メロは完全なオリジナリティがあり、そのクオリティも歌唱も最高です。

- Leave Well Alone: 

琴のような弦楽器のイントロはGTR「Here I Wait」を思い出します。

SteveはASIA「Heat of The Moment」で琴を実際に使用していたので、この曲でも使っているのかもしれません。

SteveとJonDが低いテンションで、ダーク&トラディショナルなメロディをユニゾンで歌うさまはミステリアス(笑)。

そしてCパートの"Wheels"は、Würm (Starship Trooper) 再び!という曲でした。もっとスロウ&メロウ、そして三拍子のワルツですが、3コードのギターインスト・パートという点で「Würm pt.2」と言ってもよさそうです。

- Mystery Tour: 

曲名の通りThe Beatlesに言及しており、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの名や彼らの曲名だけでなく、ブライアン・エプスタイン、ニール・アスピノール、マル・エヴァンズといった重鎮関係者の名前まで出てきて、音の方では「Strawberry Fields Forever」でお馴染みのメロトロン(フルート音)も出てきます。

この曲と次曲「Damaged World(Steve 作/歌)」を聴いたとき、単なるイメージなのですが、かつてのスーパー・グループ「Traveling Wilburys」が頭に浮かびました。気の抜けた軽快さというか、Yesもそういう季節に来ているんだなぁ、というか…。2曲ともSteveの曲です。

Yesは初期メンバーは特に、The Beatlesの影響下にありました。1stアルバムでは「Every Little Thing」を、後のライヴでは「I'm Down」のカヴァーが演奏されてきました。Alan WhiteはJhon Lennonのソロ作で仕事をしています。Steveも過去のインタビューで、何度もThe Beatlesに言及していたのを読んだ記憶があります。

CD2は3曲全てSteve作(1曲はJonDとの共作)という情報があったので、リリース前はいつものSteveのギター・ソロ的な「おまけ」かなと思っていましたが、蓋を開けてみると本作では意外にもギター・インスト曲がなく、全曲がバンド・アンサンブルでした。

SteveとJonDが、単独、共作合わせてそれぞれ6曲提供。GeoffとBillyはJonDとの共作でそれぞれ2曲だけ。この2人は作曲面/演奏面ともに、もっとしゃしゃり出ても良かったんじゃないか、とも思います。Alan Whiteもそうです。在籍歴は誰よりも長いのだから…。

ドラムに関しては、Alanはどれだけ叩けているのか、Jay Schellenとの割合など気になるところですが、正直分かりません。


総評としては、Steveのカラーが強く、彼のソロ・アルバムをYesとして仕上げた、という印象が少なからずあります。ただ、Yesは過去にもそういった経緯の作品があるグループなので、それでも良いのかもしれません。

新バンドだった筈の「Cinema」を、Yes再結成に寄り切った「90125」。

Billyと作っていたChrisのソロ・プロジェクトを転用した「Open Your Eyes」。

Bugglesの積年の恨みを晴らした(笑)「Fly From Here」(および ~Return Trip)。

今回はコロナ禍で、英米に分かれているメンバーの行き来も難しい中、作品として昇華させたSteveが頑張ったという事ですね!


良作と思いつつも、いまだ私なりの評価が定まらない本作をしっかり受け止めるために、過去作も少し聴き直しています。

・Heaven and Earth (2014)

・Tormato (1978)

雰囲気が似ているこの2作品を知り直す事で、何か見えるような気がしていますが、久しぶりにTormatoを引っ張り出したら、過去に見えなかった部分が色々見えてきて、改めてTormatoの良さを知る、という結果になりました(笑)。