このミニアルバムは、すっかり見落としていました。リリースは2019年です。
2021年7月に配信された新曲「The Ice Bridge」をAppleMusicで探していた際、ジャケット・アートの色合いが似ていたために間違えて聴いたのが、きっかけでした。
2011年のFly From Hereに際し、原曲に携わったDramaラインナップに近づけるため、Geoff Downesが復帰。そのあおりを喰らって弾き出されてしまったRickの息子Oliver Wakeman(公式にはそんなアナウンスはありませんでしたが、どう考えてもそうとしか…)。
Oliver在籍時には残念ながらスタジオ・アルバムの発表はありませんでしたが、2015年のChris逝去に端を発し、お蔵入りだったChris存命時のスタジオ音源をOliverが仕上げてくれたようです。
2010年のFly From Hereセッションで作られた4曲という事ですが、殆どがOliver作曲だったからなのか、アルバムには収録されませんでした。しかしいずれも、実にYesらしい佳曲が並んでいます。何よりOliverの演奏がお父さん譲りで、それだけで「Yesだなぁ」と感じられます。ミニモーグやオルガンの音色も良いですし、リリカルなピアノが本当に素敵です。
作詞作曲の実績も残せず、声色のためだけに利用された感の強いBeoit Davidも、良い仕事をしています。「The Gift of Love」では作曲者の一人としてクレジットもされています。Jon Andersonにそっくりな声を出したかと思えば、少し太いオリジナリティのある歌声も披露しています。特にOliverが2013年にGordon Giltrapと共同名義でリリースしたアルバムにも収めた「From the Turn of a Card」での歌声は、JonAともFly From Hereで披露された声とも違い、Oliverのピアノとのデュエットがとても美しい名曲に仕上がっています。
僅か4曲のミニアルバムですが(抱き合わせのLive from Lyonは置いときます)、Yes本来の魅力のひとつ、「歌モノ」としても三声ハーモニー、リードとバッキングの掛け合いなどが随所に見られ、基本要素をしっかり取り込んでいるのが解ります。
Steveのギターも、スタジオでは良い意味で個性を発揮してYesらしさを演出していますし、Chrisのベースは控えめな印象ですが、バッキング・ヴォーカルの存在感でYes印をしっかり刻んでいます。
ここまで書いて、もはやYesに求める事はProgressではないなと、改めて思いました。ライヴだったら(期待できませんが)70年代のようなドライヴ感を、スタジオだったら良い楽曲、良いアレンジ、そしてYesらしさを再現して欲しいと思います。私が思うYesらしさとは、各楽器の高い演奏技術、ジャンルを超えた音楽性、美しいメロディと厚いハーモニー、トリッキーなのに自然に聴かせてしまう構成力、そして意味不明な歌詞(笑)
そういう意味でOliverは、(もしかしたら古参メンバーよりも)Yesらしさとは何かを理解した上で、この4曲を仕上げたのだろうな、というのがよく解る作品です。
因みに在籍していてもいなくても、よく絡んでくるBilly Sherwoodは本作では何処にもクレジットされていないようですが、そこはかとなく彼の香りを感じるのは私だけでしょうか…